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タイを訪れたことがある人なら、あるいはタイ料理のファンなら、必ずどこかで「ナムプリック・プラートゥー」という料理に出会っているはずです。食卓の真ん中に置かれた香ばしいチリディップと、その傍らに横たわる小さな魚。それが「プラートゥー(Pla Thu)」です。
しかし、その一口に、タイの地理、歴史、そして深刻な現代的危機が凝縮されていることをご存知でしょうか?
この記事は、単なるグルメガイドではありません。タイの食卓の「主役」であるこの魚をめぐる、壮大な物語への招待状です。その輝かしい伝説から、今まさに直面している衝撃的な真実まで、プラートゥーのすべてを解き明かしていきます。
第1章:国民的アイコンの正体(プラートゥーは何者か?)
まず初めに、この物語の主人公、「プラートゥー」とは一体何者なのか、そのプロフィールを見ていきましょう。
1.1. プラートゥー:タイのサバ
タイで「プラートゥー」と呼ばれる魚の正体は、専門的には「ショートマッカレル」または「ショートボディドマッカレル」として知られるサバ科の魚です 。
- 学名: Rastrelliger brachysoma
- 生息地: 東南アジアの浅い沿岸水域を好み、特にタイランド湾奥部、プランクトンが豊富な川の河口付近に生息しています 。
- 生態: 主に動物性プランクトンを食べ、大きな群れを作って回遊します 。
1.2. 栄養の宝庫:食卓の優等生
プラートゥーが愛される理由は、その手頃な価格と美味しさだけではありません。栄養価が非常に高い、食卓の優等生なのです。
- 高タンパク質: 筋肉の修復や酵素機能に不可欠な高品質のタンパク質が豊富です 。
- ビタミンとミネラル: ビタミンB3(ナイアシン)やカリウムを豊富に含んでいます 。さらに重要なのは、プラートゥーがビタミンD3の優れた天然源であることです。100gあたり$21.4 \pm という高いレベルのビタミンD3を含んでおり、これはタイの食事基準で推奨される1日の摂取量を十分に満たすものです 。
1.3. プラートゥーの知っておくべきリスク
光が強ければ影もまた濃い。プラートゥーを消費する上で、知っておくべきリスクも存在します。
- 水銀(สารปรอท): 他の海洋魚と同様、水銀を含んでいる可能性があります。一般の成人には問題ないレベルですが、胎児への影響が懸念されるため、妊娠中または授乳中の女性は摂取量に注意が必要です 4。
- 寄生虫(พยาธิ): 「海の魚には寄生虫がいない」というのは神話です。生または加熱不十分で摂取すると、寄生虫アニサキスによる食中毒(急性の腹痛、吐き気)のリスクがあります 4。このため、タイ料理ではプラートゥーは必ず完全に加熱調理(蒸す、揚げる、煮込む)されます。
1.4. 消費者必見!「プラートゥー」 vs. 「プラーラン」
ここが最も重要です。市場であなたが手に取った魚は、本当に「プラートゥー」でしょうか?
タイの市場では、「本物のプラートゥー」と、非常によく似た別種の魚「プラーラン(Pla Lang)」(グルクマ、R. kanagurta)が、意図的に混同されて販売されていることが頻繁にあります。
- 本物のプラートゥー(R. brachysoma): 最大の特徴は、体側に明確な縞模様がないことです。体は幅広く、平たく、ずんぐりしています。目は比較的小さく、新鮮なものは青緑色の光沢を放っています 7。
- プラーラン(R. kanagurta、グルクマ): プラートゥーとして販売されがちですが、味や食感は劣るとされます。最大の特徴は、体側に3本(またはそれ以上)の明確な黒い縞模様(または点線)があることです 。
なぜこの見極めが重要なのか? その答えは、後の章(第5章)で明らかになる、タイ湾のプラートゥーが直面する「危機」と深く関連しています。

表1:プラートゥー vs. プラーラン 識別ガイド
| 特徴 | プラートゥー (ปลาทู) (R. brachysoma) | プラーラン (ปลาลัง) (R. kanagurta) |
| 体型 | 幅広く、平たく、ずんぐりしている | より細長く、流線型 |
| 体側の模様 | 明確な縞模様なし。青緑色の光沢 | 明確な黒い縞模様または点線がある |
| 目の大きさ | 比較的小さい | 比較的大きい |
| 食感・味 | 脂が乗っており、身が柔らかいとされる | 脂が少なく、身が締まっている |
第2章:メークローン(แม่กลอง)の伝説:「首折れ」がブランドになった理由
タイ全土でプラートゥーは食べられていますが、「メークローンのプラートゥー」は別格の存在です。それは単なる地名ではなく、タイで最も美味しいプラートゥーの代名詞となっています。なぜでしょうか?
2.1. 美味しさの地理学:なぜメークローンなのか?
その秘密は、メークローン川河口のユニークな地理的条件にあります 2。
プラートゥーはタイランド湾奥部に生息していますが、メークローン川の河口域は特別な場所です 。
- 「泥の土壌」の恵み: 多くの沿岸地域が砂地であるのに対し、メークローン川河口域の海底は、川が運んできた栄養豊富な「泥の土壌」で満たされています 。
- 「プランクトンのビュッフェ」: この泥質の土壌は、質の高い植物・動物プランクトンを大量に発生させます。ここはプラートゥーにとって、最高級の「プランクトンのビュッフェ」なのです 。
- 味への影響: この最高級の餌を飽食したメークローンのプラートゥーは、他の海域のものとは一線を画す特徴を持ちます。その身は「柔らかく、脂が乗っており、香りが高い」(เนื้อขุ่น นุ่ม มัน หอม)と評され、タイ全土で最高と認められる所以となっています 。
2.2. 「หน้างอคอหัก(顔を曲げ、首を折る)」:籠から生まれたブランド
メークローンのプラートゥーを象徴する姿、それは「顔を曲げ、首を折った」(หน้างอคอหัก)という奇妙な姿です 。
この形状は、生まれつきのものではありません。ある旅行ブロガーがメークローン市場の店主と交わした会話で、その真実がユーモラスに明かされています 。
- 伝説の真相: この「首折れ」の姿は、漁獲後の加工プロセスで人為的に作られるものなのです 。
- 「ケン」(เข่ง)の役割: 漁獲されたプラートゥーは、蒸し上げられ、「ケン(Kheng)」と呼ばれる小さな円形の竹籠に詰められて出荷されます。この「ケン」は直径が小さいため、魚を収めるには、その首を折り曲げて(หักคอ)、体を湾曲させる必要があったのです 。
この「首を折る」という作業は、単なる梱包技術以上の意味を持ちました。それは、意図せずして、メークローンのプラートゥーの「品質証明」となったのです。
「ケン」のサイズは均一でした。その小さな籠にぴったり収まるのは、脂が乗り始めた「完璧なサイズ」のプラートゥーだけ。つまり、「ケン」に詰められ、「首が折れた」姿で売られていることは、それ自体が「①メークローンで加工され、②最も美味しい最適なサイズである」ことを示す、物理的なブランドタグとなったのです。
2.3. 伝説を守る戦い:GI(地理的表示)
この絶大な名声は、偽装品という影を生みました。他の地域や、後述する(第5章)外国産の冷凍プラートゥーが、「メークローンのプラートゥー」として偽装販売されるケースが後を絶たないのです。
この文化的・経済的資産を守るため、現在、「メークローンの蒸しプラートゥー(ปลาทูนึ่งแม่กลอง)」をタイの地理的表示(GI)製品として正式に登録しようとする動きが活発化しています 2。これは、本物の味を守るための、現代の戦いなのです。
第3章:プラートゥー巡礼記:市場とレストラン体験(体験談)
伝説を理解する最良の方法は、その源流を訪れることです。タイのレビューサイトや旅行ブログに基づき、プラートゥーの聖地サムットソンクラーム県でのリアルな体験を追ってみましょう。
3.1. 聖地にて:タラート・ロムフッブ(メークローン市場)
プラートゥーの聖地メークローンを訪れる旅行者の多くが目指すのが、「タラート・ロムフッブ(Talad Rom Hup)」、すなわち「傘畳み市場」です 。
- 雰囲気: あるブロガーは、この市場への訪問を「命がけの旅」(ทริปเสี่ยงตาย)と表現しています 。それもそのはず、この市場は現役の鉄道路線(線路)の上に広がっているのです 。
- 「ロムフッブ」(傘畳み): 最大のイベントは、列車が接近する瞬間です。1日に8回(2024年現在)、列車が通過する直前、警笛を合図に、店主たちはわずか数十秒で一斉に日よけの傘を畳み、商品を線路脇に移動させます 。
- プラートゥー体験: ここはまさに「伝説のプラートゥー」を購入するグラウンド・ゼロです 9。訪問者にとっての体験は、単に魚を買うこと以上に、このスリリングな雰囲気や、前述の「首折れ」の逸話を教えてくれる気さくな店主たちとの交流そのものにあります 。
3.2. 食の体験:二つのレストラン(モダン vs 伝統)
市場でプラートゥーに触れたら、次はその味を体験する番です。レビューを分析すると、プラートゥー体験は大きく二つのタイプに分かれます。
ケーススタディ1:バーン・プラートゥー・ビュッフェ(บ้านปลาทู บุฟเฟต์)
- コンセプト: サムットソンクラーム県アムパワー地区にある、モダンな「プラートゥー・ビュッフェ」レストラン。222バーツ(約900円)で2時間食べ放題という手頃さが人気です 。
- 体験: 川沿いの素晴らしいロケーションですが、店は比較的小さいため、週末は予約が推奨されます 10。
- メニュー(モダンな解釈): この店は、プラートゥーという食材の「多様性」を示しています。ビュッフェとはいえ注文を受けてから調理するアラカルト形式で、約40種類ものプラートゥー料理が提供されます 。
- お勧め料理: 「カオメオ(猫まんま:ご飯とプラートゥーのほぐし身)」、「プラートゥートート・ラート・ナンプラー(揚げプラートゥーのナンプラーソースがけ)」など 。
- 革新的メニュー: 真骨頂は、「ガパオ・タップ・プラートゥー」(プラートゥーの肝のバジル炒め)といった希少部位の料理 10。さらに、店の入り口では「プラートゥー・アイスクリーム」や「プラートゥー・クッキー」まで販売されており、伝統食材を現代的に楽しむ遊び心が満載です。
- 総評: 多くのレビュアーが価格と鮮度を称賛しています。ただし、あるリピーターは「2回目の訪問では味が落ちていた」とも指摘しており、人気店ゆえの品質の波がある可能性も示唆されています 。
ケーススタディ2:リムナーム(ริมน้ำ แม่กลอง)
- コンセプト: メークローン川のほとりに佇む、創業40年とも50年とも言われる「伝説的」な老舗食堂 。
- 体験: 観光地化されたアムパワーとは対照的に、シンプルでローカルな雰囲気が漂います。店主のウィライおばさん(Pa Wilai)は、毎朝自ら魚介類を厳選する「伝説」的な人物として知られています 。
- メニュー(伝統の解釈): この店の焦点は「本物」と「完璧な調理」です。
- お勧め料理:
- 「プラートゥー・デートディアオ」(Pla Thu Daet Diao – サバの一夜干し): 多くのレビュアーが絶賛。完璧な火加減で揚げられているため、頭も含めて丸ごと食べられると言います。特に「頭」は、香ばしく脂が乗っており(หอมมัน)、最高の部位だと評されています 。
- 「プラートゥー・ヤーン」(Pla Thu Yang – 伝統的な焼きサバ): 他では見られない、伝統的な「ココナッツの殻」の燻煙で焼き上げられ、独特の香ばしい香りが魚に移ります 。
- 「タップ・プラートゥー・パットチャー」(Tap Pla Thu Phad Cha – サバの肝のスパイシー炒め): ケース1の店では「ガパオ」でしたが、この店では「パットチャー」(タイハーブのスパイシー炒め)で提供。苦味がなく、クラチャーイ(野生ショウガ)の香りが際立つ、と絶賛されています 。
- 総評: 圧倒的に肯定的な評価。ここは、何世代にもわたって受け継がれてきた深い知識に裏打ちされた、「本物」のプラートゥー料理を味わいたい「純粋主義者」のための場所です。
第4章:プラートゥー・キッチン:タイ家庭の味(レシピ)
プラートゥーは、タイ料理の文脈において、他の食材と組み合わさることでその真価を発揮します。ここでは、タイの家庭でプラートゥーがどのように愛されているか、最も象徴的なレシピを見てみましょう。
4.1. プラートゥー料理の「三種の神器」
プラートゥーを国民食たらしめている、最も基本的かつ重要な3つの料理が存在します。
1. ナムプリック・プラートゥー(น้ำพริกปลาทู):究極のディップ
プラートゥー料理の中で最も有名であり、タイの食卓を象徴する一皿です 。

- 材料: 主役は蒸した(または焼いた)プラートゥーの身 13。その他の核となる材料は、ニンニク、赤玉ねぎ(ホムデーン)、そして唐辛子(プリック)です。
- 調理法: 香りを最大限に引き出すため、まず唐辛子、ニンニク、赤玉ねぎを乾煎り(คั่ว)するか直火で焼きます。その後、プラートゥーの身と焼いた香味野菜をすべて石臼(クロック)に入れ、叩き潰します(โขลก) 。
- 味付け: ライム果汁(มะนาว)の酸味、タマリンドジュース(น้ำมะขามเปียก)のまろやかな酸味、パームシュガー(น้ำตาลปี๊บ)の優しい甘み、そして塩(またはナンプラー)で味を整えます 13。より深い旨味のために、発酵させた魚醤(น้ำปลาร้า、ナンプラーラー)を加えるレシピも一般的です 。
2. プラートゥー・トート(ปลาทูทอด):シンプルな完成形

最もシンプルで、最も一般的な調理法。あの「ケン」に入った蒸しプラートゥーを、そのまま油で黄金色になるまで揚げるだけです。
それ自体がご飯のおかずになるだけでなく、多くの料理(「ナムプリック・カピ」の付け合わせや、「カオメオ(猫まんま)」の主役)の「ベース」となります 。
3. プラートゥー・トムケム(ปลาทูต้มเค็ม):甘辛い煮付け

サトウキビなどと共に、魚の骨が柔らかく食べられるようになるまでじっくりと煮込む、伝統的な甘辛い煮魚料理です。
4.2. 不可欠な名脇役:付け合わせ野菜(ผักเคียง)

特に「ナムプリック・プラートゥー」は、それ単体で完成する料理ではありません。「パック・キアン(Phak Khiang)」と呼ばれる多彩な付け合わせ野菜があってこそ、その魅力が輝きます。
- 生野菜(ผักสด): キュウリ(แตงกวา)、白菜(ผักกาดขาว)、インゲン豆(ถั่วฝักยาว)、ディル(ผักชีลาว)など、ディップの辛さを中和する新鮮な野菜 。
- 茹で野菜(ผักลวก): インゲン豆(ถั่วฝักยาว)、空芯菜(ผักบุ้ง)、茹でたキャベツなど、ディップの味を吸い込む柔らかい野菜 13。
これらすべてが揃って、初めて「タイの食卓」の風景が完成するのです。
第5章:危機:#NamPrikPlaThuを取り戻す戦い
さて、ここまでプラートゥーの輝かしい文化と伝説を語ってきました。しかし、その裏側で、タイのプラートゥーは今、その存在自体が脅かされる深刻な危機に直面しています。
5.1. 「90%」という衝撃:あなたのサバの真実
私たちが「メークローンの伝説」に思いを馳せている一方で、食卓の現実は全く異なります。タイの皿に乗っているプラートゥーのほとんどは、もはやタイ産ではないのです。
- 統計の悪化: この危機は急速に進行しています。数年前、水産学者のチャワリット博士が引用した調査では、タイで消費されるサバの60%が輸入品で、国産は40%でした 。
- 最新の現実: しかし、最新の報道によれば、この数字はさらに悪化し、現在タイ人が消費するプラートゥーの90%以上が輸入品であると主張されています 。
5.2. 輸入品の正体:オマーンとイエメンから
この90%という「輸入品」は、どこから来ているのでしょうか? 答えは、遠く中東のオマーンやイエメンといった国々です。そこで漁獲され、冷凍されてタイに輸送されてきたものが、今やタイの食卓を支えているのです 17。
5.3. 原因:崩壊する生態系
なぜ、これほどまでに輸入品に依存しなければならなくなったのか。それは、タイランド湾の天然プラートゥー資源が「崩壊」状態にあるためです 。
- 国産魚の消失: 前述のチャワリット博士は、本物の高品質なメークローンのプラートゥーは非常に希少になっており、地元の市場ですら「すべて予約で完売」し、「バンコクの市場にはほとんど届かない」と証言しています。第2章で解説した「伝説の味」は、今や幻となりつつあります。
- 原因: この資源枯渇の主な原因は、数十年にわたる乱獲と、生態系を破壊する工業的漁業(底引き網など)にあると指摘されています 。
- 法的な論争: 現在、タイの漁業法の改正(特に「第69条」)を巡って、環境保護団体と漁業関係者の間で激しい論争が繰り広げられています。この規制緩和が実現すれば、網の目を問わず漁獲されてしまう天然プラートゥーの稚魚にとって「最後の一撃」となり、資源の枯渇を決定的なものにする「災害」となると警告されています 。
5.4. 消費者の叫び:「#ทวงคืนน้ำพริกปลาทู(#NamPrikPlaThuを取り戻せ)」
この絶望的な状況に対し、消費者と環境活動家の間から、ある強力なスローガンが生まれました。それが「#ทวงคืนน้ำพริกปลาทู(#ReclaimNamPrikPlaThu)」です 。
このスローガンの意味は、単なる「魚を食べよう」という呼びかけではありません。
「ナムプリック・プラートゥーを取り戻せ」という言葉の裏には、「本物のタイのプラートゥー(魚)」なしには、「本物のナムプリック・プラートゥー(料理)」は存在し得ないという強いメッセージが込められています。
タイ人が今食べているナムプリック・プラートゥーは、その主原料の90%がオマーンやイエメンからの冷凍輸入品であるならば 17、それはもはや「本物の」タイ料理と呼べるのだろうか?——このハッシュタグは、そう痛烈に問いかけているのです。
これは、持続可能な漁業を実践し、タイランド湾の生態系を回復させ、次世代が再び「本物のタイ産プラートゥー」を食卓に並べられるようにするための、文化と生態系を守る戦いのスローガンなのです。
結論:食卓のパラドックス、プラートゥーの未来
本記事は、タイの「プラートゥー」が持つ複雑な二面性を明らかにしてきました。
- 「アイコン」としてのプラートゥー: それは、メークローンの地理と歴史に根ざした、食文化の象徴です。老舗食堂(リムナーム)で完璧な一夜干しとして称賛され 、またある時はアイスクリーム(バーン・プラートゥー)として革新の対象ともなっています。
- 「コモディティ」としてのプラートゥー: それは、かつての栄光の影です。タイランド湾の漁業は崩壊し、その需要の90%以上が中東からの冷凍輸入品によって代替されているという「商品(コモディティ)」です。
プラートゥーの物語は、もはや単なるグルメや旅行の話題ではありません。それは、地理、歴史、革新、そして深刻な危機が織りなす、複雑な叙事詩(エピック)となっています。
私たちが「美味しい」と感じるその味の裏には、今まさに失われようとしている生態系と、それを取り戻そうとする人々の戦いがあります。「ナムプリック・プラートゥー」を真に味わうとは、その伝説の美味しさだけでなく、その背後にある「現実」をも知ることなのかもしれません。

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